ヨーロッパは、EU(欧州連合)を中心に経済統合が進み、税制や貿易に関する多くの共通ルールが設けられています。ただし、加盟国ごとに独自の税制が維持されており、法人税や付加価値税(VAT)などは国ごとに異なります。
EU域内では関税が撤廃されており、加盟国内での貿易は自由ですが、域外との取引には関税がかかる場合があります。これにより、ヨーロッパは単一市場としての強みを発揮しつつも、国際貿易では厳格なルールを適用しています。
法人税と事業関連税制
1. 法人税率の比較
ヨーロッパの法人税率は国によって大きく異なります。例えば、
- アイルランド:12.5%(ヨーロッパで最も低い水準)
- ハンガリー:9%(最低水準)、キプロス:10%
- ドイツ:約30%(地方税を含む)
- フランス:25%(2022年以降)
- イギリス:25%(2023年4月以降)
法人税率が低い国(アイルランド、ルクセンブルク、ハンガリーなど)は、外資系企業の誘致を積極的に行っています。一方で、ドイツやフランスなどの国は高税率ながらも市場規模やインフラの充実度で競争力を維持しています。
2. 税制優遇措置
- 研究開発(R&D)税制:多くの国が研究開発への投資を促進するために税控除を行っています。フランス、イギリス、ベルギーなどはR&D支出の一定割合を控除可能です。
- スタートアップ支援:エストニアやフィンランドでは、新興企業への税制優遇や補助金が充実しています。
- 持株会社制度:オランダやルクセンブルクは、持株会社を設立することで海外所得への課税を軽減する制度を提供しています。
付加価値税(VAT: Value Added Tax)
EU加盟国では、付加価値税(VAT)が物品やサービスの取引に課せられます。これは消費税に相当するもので、標準税率は国ごとに異なりますが、EU指令により最低税率は15%と定められています。
1. VAT税率の例
- ハンガリー:27%(EU内で最も高い)
- デンマーク、スウェーデン:25%
- ドイツ:19%
- フランス:20%
- ルクセンブルク:16%(最低水準)、マルタ:18%、ドイツ:19%
一部の商品やサービスには軽減税率(5%~10%)が適用され、食品、医薬品、書籍などは軽減される場合があります。
関税と貿易税制
1. EU域内貿易
- EU域内貿易では関税が完全に撤廃され、国境を越えた取引が自由に行えます。物流の円滑化により、企業はEU全域でのサプライチェーン構築が可能です。
- 原産地規則が適用され、域内で製造された製品は関税なしでEU内を自由に流通します。
2. EU域外貿易(第三国との貿易)
EU域外からの輸入には共通関税(CET:Common External Tariff)が課せられます。
- 製品の種類によって関税率は異なり、電子機器や医療機器は関税率が低く、農産品や繊維製品には比較的高い関税が課されます。
- 自由貿易協定(FTA)を締結している国(日本、カナダ、韓国など)との間では、関税の段階的な撤廃や削減が進められています(日EU経済連携協定では、日本側は約94%、EU側は約99%の品目について関税を撤廃するとされています)。
- 特恵関税制度(GSP:Generalized System of Preferences)により、途上国からの輸入品には関税が減免される場合があります。
デジタル税と国際課税の新潮流
EUはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などの巨大IT企業を対象としたデジタル税の導入を検討しています。各国独自のデジタルサービス税(DST)が導入されており、
- フランス:デジタルサービス税3%
- イタリア、スペイン、イギリス:約2~3%
これは、デジタル企業が物理的な拠点を持たない国でも利益を上げている現状に対応するための措置です。
税制の課題と展望
- 法人税競争:一部の国が低税率で外資誘致を進める中、税の回避を防ぐために最低法人税率の導入が議論されています。2023年には最低税率15%がOECDで合意されました。
- 税制の一元化と多様性:EUは税制の統一を目指しつつも、加盟国の主権を尊重する必要があります。そのため、税制改革は段階的に進められています。
- 環境税の強化:炭素排出量に対する課税(カーボンプライシング)が導入され、環境に配慮した事業が求められています。
ビジネス展開への影響
ヨーロッパでのビジネスは、税制の複雑さを理解し、進出する国の特性に応じた戦略が必要です。
- 法人税の低い国に拠点を置きつつ、主要市場であるドイツやフランスでの販売を拡大するなど、柔軟な事業展開が求められます。
- VATや関税などの税負担を考慮し、物流や生産拠点の最適化を図ることが競争力につながります。
ヨーロッパの税制はビジネスに多大な影響を与えるため、税務アドバイザーや国際税務の専門家と連携し、適切な税務戦略を策定することが重要です。